ユウキ: 博士、こんにちは! 最近ニュースで見たんですけど、JICAの「アフリカ・ホームタウン計画」って、すごい騒ぎになって結局中止になっちゃったんですよね? 「移民が増える!」みたいな話で炎上したって聞いたけど、そもそも、どうしてあんな計画が作られたんですか?
博士: やあ、ユウキくん。いい質問だね。結果だけ見ると大きな失敗に見えるかもしれないが、あの計画には、実は日本の未来にとって非常に重要な戦略的ビジョンがあったんだよ。簡単に撤回して良いものだったのか、その本来の目的を知れば、きっと君も色々と考えさせられるはずだ。
ユウキ: 戦略的ビジョン、ですか?
博士: そうだ。まず、この計画がどこで発表されたか知っているかな? 横浜で開かれた「アフリカ開発会議(TICAD)」という、とても大きな国際会議の場だったんだ。
これは、日本の総理大臣がアフリカ各国の首脳たちを招いて、アフリカの未来について話し合う、日本の対アフリカ外交で最も重要なイベントなんだよ。
ユウキ: そんなすごい会議で発表されたんですね!
博士: その通り。つまり、この計画は日本政府の新しいアフリカ政策の柱の一つとして、世界に向けて発表されたものだったんだ。そして、ここが重要なのだが、この計画は日本の国際協力のやり方が大きく変わろうとしていることを象徴していた。
ユウキ: やり方が変わる?
博士: うむ。これまでの日本の国際協力、いわゆるODA(政府開発援助)は、道路や港、発電所といった大きなインフラ、つまり「ハード」の支援が中心だった。もちろんそれも大切だが、これからは人と人との繋がりや文化交流といった「ソフト」の力で、草の根レベルの信頼関係を築いていくことが重要だと考えられるようになったんだ。
このホームタウン計画は、まさにその「ソフトパワー」を使った新しい外交の形だった。お金やモノの支援だけでなく、人と人の交流という「長期的な投資」で、日本のファンを増やし、国としての信頼を得ようとしたわけだね。
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ユウキ: なるほど。でも、具体的には何をすることが目的だったんですか? やっぱり、ネットで言われていたみたいに、移民を受け入れるのが本当の狙いだったんじゃ…?
博士: それは断じて違う。政府もJICAも、移民の受け入れや特別なビザの発給が目的ではないと、何度も強く否定している。
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本当の目的は、大きく分けて3つあったんだ。
ユウキ: 3つですか。
博士: 一つ目は、純粋な「人的・国際交流の促進」だ。
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お互いの文化を知るイベントを開いたり、研修生を受け入れたりして、顔の見える関係を築くこと。これが基本だね。
二つ目は、「架け橋人材」の育成だ。
日本とアフリカ、両方のことをよく知る人を育てることで、将来、ビジネスや文化の面で両者を繋ぐ「架け橋」のような存在になってもらう。これは双方にとって大きな財産になる。
そして三つ目、これがこの計画の最もユニークな点だが、「日本の地方創生への貢献」だ。
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ユウキ: え、アフリカとの交流が、日本の地方を助けることにつながるんですか?
博士: その通り! 今、日本の多くの地方都市は、人口減少という深刻な問題に直面しているだろう? 国際交流を活発にすることで、その地域に関心を持つ「関係人口」を増やし、地域を元気にするきっかけにしようと考えたんだ。これは、アフリカを助けるだけの一方的な「援助」ではなく、日本側も利益を得る「共創」のモデルを目指していたんだよ。
ユウキ: すごい、外交と国内問題の解決を同時にやろうとしていたんですね! ちなみに、パートナーになった都市と国って、どうやって決めたんですか?
博士: それも重要なポイントだ。組み合わせは決してランダムではなく、すべて過去の交流実績に基づいていたんだよ。
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例えば、愛媛県今治市とモザンビークは、船の産業(海事産業)での繋がりがあったし、
千葉県木更津市は東京オリンピックの時にナイジェリア選手団のホストタウンを務めた経験があった。
つまり、すでにある良好な関係を、もっと発展させようという、地に足の着いた計画だったんだ。
ユウキ: そうだったんですね…。話を聞いていると、すごく意義のある計画だったように思えます。それなのに、誤解から中止になってしまったのは、なんだかすごくもったいない気がしてきました。
博士: まさにその通りだ、ユウキくん。この計画の撤回は、単に一つの事業がなくなったというだけでなく、日本のソフトパワー戦略や外交と国内課題を連携させるという新しい試みが、誤った情報によって頓挫してしまったという大きな損失を意味する。我々はこの事実を重く受け止め、未来への教訓として生かしていかなくてはならないと思うよ。